校内研修で生成AIを学ぼう!

0.はじめに

 2025年6月30日にGoogleは、アメリカでは学校に広く普及している Google for Workplace for Education で利用できる「Gemini in Classroom」という教育版の生成AIツールを無償提供する旨の報道がありました。この中では、指導案の概要作成や簡単なテスト、ルーブリック作成など30以上の機能が新たに搭載されているとのことでした。また、8月8日には、ChatGPTの新バージョンGPT-5がリリースされました。今年も生成AIは加速度的に進化し続けているようです。
 また、負の面の新たな動きとして、アメリカでは生成AI(人工知能)の影響で大卒の若者が「就職氷河期」のような状況に陥っており、特にICT関連の業界ではこうした有意な人材が行き場を失っているとのニュースが流れています(時事通信 2025/8/17)。 

 私は、教育系の大学で非常勤講師として数学科教育法の教鞭もとっていますが、多くの教科教育法の指導項目の中には「学習指導案の書き方」というものが必ず含まれています。しかし、数年先には生成AIが学校での業務を当たり前に支援してくれる環境が整い、自分が授業をしたい単元や学習内容の指導案も生成AIに頼めば準備してくれるような環境になるでしょう。「先生を目指す学生に、本当に学習指導案を書く力を身に付けさせなければいけないのだろうか…」これが、私が今夏に抱いた疑問でした。
 学校現場の生成AIへの対応は待ったなしの状況です。しかし、A.トフラーに言わせると、「制限速度時速100kmの高速道路を時速10kmで進むおんぼろ車の教育界」です(「富の未来」 2006)、職員室の雰囲気は「重い腰がなかなか上がらない」学校も多々あるのではないでしょうか。そこで、本稿では学校で生成AIの校内研修を行うにはどういった視点から行えば良いのか取り上げてみたいと思います。

1.校内研修は60分一本勝負

 研究校や地域の中核校であれば、それなりに校内研修の時間が確保され、研修に取り組む学校の体制が整っています。しかし、多くの学校では、働き方改革の流れも有り、月に1度でさえも研修の機会を持てないところが増えています。また研修の1回あたりの時間も、だいたい質疑応答込みで60分というところが関の山です。そこで、この枠組みの中で、生成AIについてどのような研修ができるのか考えてみました。

60分の校内研修用のスライド例(クリックでスライドを表示)

  • 01_未来の教室実証事業
  • 02_果たして本当にそうなるのか…
  • 03_生成AIとは?
  • 04_チワワがギターを持って歩いている画像
  • 05_生成AIの種類
  • 06_ChatGPTの利用にあたって
  • 07_文章を作ったり、まとめたりする
  • 08_学級便りの文章作成にAIを利用する
  • 09_文章作成へのAIの利用
  • 10_アンケートの分析
  • 11_PTAアンケート「外泊に賛成か反対か」
  • 12_賛成派の意見は…
  • 13_生成AIは、文章の作成や分析が得意
  • 14_生徒の回答を採点・添削する
  • 15_添削や採点に利用する場合…
  • 16_道徳~「私は清掃のプロになる」(日文)
  • 17_エクセルに並べて添削の準備
  • 18_プロンプトと生徒の回答を準備して…
  • 19_人工知能から2002さんへの助言
  • 20_GPT-ScoreAID
  • 21_音声による生成AIの活用
  • 22 英語での道案内
  • 23_AIと教師がコラボする未来の授業
  • 24_今日の研修のまとめ
  • 25_注意点

2.研修の出だしは…

 この研修例では、まず最初に先行研究「未来の教室実証事業」を紹介し、生成AIを使うと学校がどのように変わっていくのかについて、現時点での予想を示しました(スライド01~02)。でも、現場の先生にとっては、本当にそのように変わるのか半信半疑です。
 そこで、生成AIというのはどのようなものか、実際にその場でリクエストを受けて、お題に沿って(今回は「ギターを持って歩くチワワ」)生成AIに絵を創作してもらいました。たぶんここでは、多くの先生方が「ほほう…こんなことができるのか…」といった感想を持たれたことと思います(スライド03~04)。
 そして、少し柔らかい雰囲気になったところで、生成AIの種類やその利用について話を進めます(スライド05~06)。職員の中には既に生成AIを使っていらっしゃる方も増えていますので、そうした先生方に使っている様子をどんどん話していただいて、AIにもいろいろな種類があることや、バージョンが日々更新され、進化し続けていることなど、今日的な動きを感じられる場面として位置づけました

 そして、いよいよ実際に体験してもらう場面です。生成AIは何より、文章を作ることが得意ですから、「学級便りをつくる」という場面を想定して、研修している先生に生成AIを実際に動かしてもらい、学級便りをつくる実習を位置づけました(スライド07~09)。ここでは、生成された学級便りの流ちょうな文章に驚いたり、隣の人と見比べて、それぞれ違った文章が出力されていることにびっくりされた先生もいらっしゃいました。
 また、生成AIは大量の文章から要点をまとめたり、幾つかの観点に整理することも得意です。二つ目の実習では沢山の意見が記述された保護者アンケートを大きく3点に集約するという分析に取り組み、こうした業務にも生成AIは有効に活用できることを体験してもらいました(スライド10~13)。
 こうして、いくつかの実習に取り組み、先生方に生成AIの活用はそんなに難しいものではないことを感じてもらえるように実習場面を位置づけました。

この実習で用いているChatGPTは、ブラウザから利用するものではなく、APIキーを使って利用するアプリケーションタイプのものを準備しました。無料のものもそこそこ性能が上がってはいるのですが、混雑している時はレスポンスが遅かったり、1日の利用回数が制限されていたり、利用するモデルも少し前のものであったりします。学校の業務で利用できる最前線の生成AIの力を感じてもらうためには、必要な時に必要なだけ使えなければならないですし、ChatGPT であればGPT-4oというモデルにはぜひ触れて欲しいと思い実習を企画しました。
 HemulGMさんがGitHubより提供しているアプリケーションを準備して、APIキーについては、私のアカウントで研修されている先生の人数分を作成しました。APIから利用する場合には、利用した分の料金が発生するのですが、先ほどのブラウザから利用する場合と違って、利用回数やモデルには制限がなくなり、実に軽快にChatGPTと対話することができます。
 ChatGPTに月々一定のお金を払って利用されている先生も多いと思いますが、APIからの利用に切り替えてみると、本当に使った分しか課金されないため、利用料の軽減につながる先生もいらっしゃるかもしれません。ガンガン使う方は定額で、時々使う方はAPIから使った分だけ…というお話も、この研修中でお伝えしました。
 

3.生成AIの本当の実力は記述式回答への対応で発揮される

 生成AIの本当に凄いところは、実はこれまで適用が難しかった記述式の回答を採点したり、少し長めの文章(1000字や2000字でも余裕でいけます!)でも、内容を要約して示すことができます。極めつけは、採点の視点や基準を伝えて、例えば5段階のABC…で評価させると、「なぜこの記述はCなのか」についてその理由も付けて評価を返すことができるのです。
 こうした、一番大切な変化を先生方に感じてもらうために、研修案では実際に社会科のテストの記述問題の採点に適用したり、英作文の添削をさせたり、道徳というこれまでは殆どAIの利用が不可能だった授業で、フォームから回収した生徒の意見や考えの添削に利用するデモンストレーションを行いました(スライド14~20)。
 こうした使い方で難しいところは、一つのプロンプト(生成AIにこのように読んで欲しい・採点して欲しいということを伝える指示書のようなものです)に対して、生徒30人分の回答を一つ一つ読み込ませていかなければならないところにあります。ブラウザから利用しているChatGPTではどうしてもそこがネックになります。
 そこで、一つのプロンプトで生徒30人分の添削を一気にできるGPT-ScoreAIDというアプリケーションを紹介し、そこで得られた実際の添削について確認をしました(スライド20とスライド22)。
 アプリケーション上で使う生成AIは、こういった形でただのチャットでのやり取りにとどまらず、同じプロンプトで1クラス全員の回答を一気に添削させるといった一段上の使い方をみせてくれます。きっと将来は、これまで不可能だった様々な学校のいくつかを改善してれる可能性を秘めていると思っています。

4.音声を使った教育活動

 最新の生成AIの機能で学校に最もインパクトを与えそうなのが、文字ではなく音声を使った利用です。今年に入ってから、GeminiでもChatGPTでも音声を使って問い合わせたり、回答を答えてもらうことがずっと身近なものになりました。
 今回の研修案では、英語での道案内を、研修に参加された先生と生成AIとの会話で実際に行い、授業での新しい使い方についてのディスカッションに繋げるという形をとりました(スライド21~22)。
 音声による利用は、文字で生成AIを使う以上に様々な可能性を持っており、英会話に止まらず、道徳の授業でもう一人の架空の生徒として授業に参加してもらったり、若い先生が自分の考えた授業のシミュレーションを行う生徒役の相手として利用する可能性などが話題となりました。

5.AIと共存した未来の授業

 日々進化し発展途上にある生成AIが未来の教室において、どのような位置づけになるのか予測することは難しいです。しかし、現在の実践には方向性が必要です。そこで、研修の最後では「AIと教師がコラボする未来の授業」というテーマで、YouTubeに掲載されていたいろいろな動画から、私のイメージする未来の授業に最も近い、「違います!『日本はキリスト教を学ぶべき』その意見に反論します!」という動画を約7分ほど紹介しました(スライド23)。
 これはあるアメリカの大学の宗教の授業で起きた話し合いをもとに構成されているのですが、ここでの生成AIの授業への位置づけは素晴らしく、未来の教室を予見させるものでした。もちろん、実際には違った形での導入や運用となっていくのかも知れません。しかし、今日の実践を行う上で、未来をどう捉え、どちらの方向に進んでいくのかを意識することはとても大切なことだと思います。
 もし校内研修で少しだけ余裕の時間があったら、私はスキルを一つ足して覚えることよりも、こうした未来を語ること-そして、職員の気持ちを一つの方向に束ね誘うこと-の方にその時間を費やしたいと思います。

6.研修のまとめにあたって

 生成AIについて、60分一本勝負で研修案を駆け抜けてきました。まとめに用意したスライドは2枚です(スライド24~25)。今回の研修案を作成する中で、実はイケイケドンドンの影に、様々な留意事項が存在していることに改めて気が付きました。最後の「注意点」のスライドには、現時点で特に注意する事項をまとめました。
 生成AIは人類がこれまで経験したことのない強力な力を持ったツールです。
 その利用にあたっては、想像力をしっかりと膨らませて、万が一のことが起こらないように、起こっても対処できるように最善を尽くす必要があります。
 特に欧米では命に関わる事案も起きています。そのことも踏まえ、学校での利用について正しいコンセンサスの形成をそれぞれの学校で模索して欲しいと思います。

函館大谷短期大学ビジネス情報科 奥崎敏之 

追記
 GPT-ScoreAIDは、ChatGPTの新バージョンGPT-5への対応が終わりバグがないか最終チェックに取り組んでいます。今回の改訂ではGPT-5だけではなく、従前のGPT-4oや高度推論モデルのo3、o4-miniなども選択できるようになりました。
 これにより、数学の証明の記述問題や道徳の助言でも、より精度が高い添削ができるようになりました。GPT-5はGPT-4oに比べて、共感力が若干低いような報道がありますが、道徳などの添削に使う場合には、プロンプトを少し工夫することによって、これまで以上に素晴らしい助言が得られるような感触を持ちます。
 詳細は間もなく公開される「生成AIは命の学びをどう深めるか―道徳教材『ゆうへ-生きていてくれてありがとう-』を通して」の記事でお知らせしたいと思います。

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