命の学びを深める生成AIの活用―教材「ゆうへー生きていてくれてありがとうー」が拓くAI時代の道徳の可能性

本記事の概要

 本稿は、道徳教材『ゆうへ-生きていてくれてありがとう-』を題材に、生成AIを授業に活用した実践を報告しています。授業中の回答分析による「横深」と、授業後に個別助言を行う「縦深」の両面でAIを活用し、生徒の理解を深める可能性を検討しました。また、GPT-4oは共感的な助言、GPT-5は分析的な提案に特徴があり、両者を使い分けることで教師の負担軽減や議論の充実に寄与できることが確認されました。

Update (2025/09/10)

 この記事に対応した、GPT-ScoreAIDの最新バージョンをリリースします。
 GPT-5や推論が強化されたo3などがAPIからりようできます。GPT-5は、利用の混雑の関係や推論の深さの設定で、まだ回答が途中で途切れることもあるのですが、実用上は差し支えないレベルだと思います。次期バージョンでは、再問い合わせや推論の深さの加減ができるように改修される予定です。👉ダウンロードは、ここから!  
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0.はじめに

 道徳教育に生成AIを活かす取組では様々な活用例が報告されています。このブログでも、新津春子さんという羽田空港のお掃除マイスターを扱った「私は清掃のプロになる」(日本文教出版株式会社)という題材に生成AIを活用する事例を取り上げました。
 筆者の道徳教育に生成AIを活用するスタンスは、先生の授業運営を支援するツールとして次の二つの視点からその利用を探っています。

  • 授業中に、生徒たちが先生からの発問で述べた意見を、その場でリアルタイムに分析・分類して、授業の議論の活性化や討論の方向性についてAIが先生に助言する「横深(おうしん)」(DeepCross Analysis)という使い方
  • 授業後に、一人ひとりの生徒について、その道徳の時間の発問の回答記録を使って、その生徒が感じたことや、どのような育ち・学びに繋がったのかをAIが分析し、道徳ノートに添えるコメントとして添削案を作成する「縦深(じゅうしん)」(DeepLong Analysis)という使い方

 本稿では「ゆうへ-生きていてくれてありがとう-」(日本文教出版株式会社)という道徳教材についても、この視点から生成AIの活用を考えてみます。
 「ゆうへ」は、先回の「私は清掃のプロになる」とは違った内容項目「D-(19) 生命の尊さ」を扱った教材です。「命」という人間にとって深淵な題材を取り扱った道徳教材に、最新の生成AIはどんなアシストをしてくれるのでしょうか。「横深」と「縦深」という視点から、その授業支援の可能性を探ります。

 なお、授業は2025年2月の実施でした。しかし、私の業務の関係でまとめが8月にずれこんでしまいました。この間に ChatGPT も進化して、2月の時点で分析に使っていた Gpt-4o からさらに新しい Gpt-5 というバージョンが利用できるようになりました。そこで、この最新の GPT-5 についても、「横深」と「縦深」の視点から当時のデータを使って分析を行い、GPT-4o と GPT-5 の違いや適切なプロンプトの作り方などについても探ります。

 なお、「ゆうへ-生きていてくれてありがとう-」の授業の大まかな流れは、教科書の発行元である日本文教出版株式会社のWebページに、フリーで見られる指導案などの資料をみつけることができませんでした。そのため他所の授業の展開の参考となる指導案へのリンクを代わりに掲載します。私の実施した授業でも、概略この指導案の流れに沿って行いました。授業の流れや発問の位置を把握する際に参考としてください。

 題材「ゆうへ-生きていてくれてありがとう-」の概略を次に示します。

 阪神・淡路大震災で一歳半の長男しょうくんを失った母親の手記。地震の混乱の中で助けられなかった自責と苦しみを長く抱え、生き残った自分を責め続けた。成長できなかったしょうくんへの思いは深く、双子の妹ゆうちゃんの存在も見失いそうになったが、「ゆうちゃんと共に生きる」ことを選び、命の尊さや生きていてくれることへの感謝に気づかされた。やがて、家族や周囲の支えにより再び笑顔を取り戻し、悲しみだけでなく笑って生きることも亡き子を思う方法だと受け入れるようになった。

1.生徒の意見をリアルタイムに分析・分類し、授業の方向性を探る「横深」

 教科書出版社より例示された指導案には、題材の理解を確認する2つの発問と、この題材の主題に迫る中心発問が示されています。私の授業でも、その指導案に沿って授業を行い、生徒の回答をフォームから集めました。例示されていた3つの発問は次のとおりです。

  • 発問1:「しょうくん、ゆうちゃんの母である「たかい」さんは、突然の地震に、どのような気持ちになったと思いますか?」
  • 発問2:「『たかい』さんが、しょう君を失い深い悲しみから、なかなか立ち直ることができない日々が続きました。しかし、『たかい』さんはしょうくんのもとにはいかず、ゆうちゃんと一緒に生きることを選択しました。『たかい』さんはどんな思いからこうした選択をしたのでしょうか?」
  • 中心発問:「『たかい』さんがこの文章につけた「生きていてくれてありがとう」という言葉には、『たかい』さんのどのような思いが込められていると思いますか。『たかい』さんが深い悲しみを乗り越えて生きていくために気づいた大切なものとは何だったのでしょうか。」

 これらの発問それぞれについて、生徒たちの回答をAIを使って分析・分類し、授業の話し合いに役立てようというのが「横深」の考え方です。その際に用いるプロンプトは、前回の「私は清掃のプロになる」の題材で、次の様な形を提案していました。

 「横深」のプロンプトの基本的な形

  • 教材の本文を全文AIに伝える
  • その後、本時についてどのような進行を予定しているか、3つの発問を交えながら説明する
  • 実際の授業でフォームから収集された生徒の回答をプロンプトに入れることができるように空欄の場所を確保する
  • AIに依頼するのは分析・分類であることと、書式などの指示を伝える

 発問1の「横深」の実際のプロンプト

 これから読んでもらう文章は、中学校1年生の道徳の授業で利用される「ゆうヘ-生きていてくれでありがとう-」という文章です。

—–文章開始
ゆうヘ-生きていてくれでありがとう-

一九九五年(平成七)年一月十七日、午前五時四十六分。それは、まだ薄暗い早朝、人々がようやく活動をし始めた頃起こった。
そして、大きな揺れとともに目がさめた。

ママは、叫んだ!
「なにコレ! 地震!?

(本文中略)

 そして、パパやおじいちゃん、おばあちゃんをはじめいろんな人も、あなたの死を悲しみ、そして、今でもあなたのことを大切に思ってくれているよ。

 ママは、ママの悲しみを受け入れてくれてそばに寄り添ってくれるいろんな人のおかげで、再び笑うことができるようになりました。そのすべての人に心から感謝しています。 ママの笑顔、しょうくんにも見えていると信じてる。

——-文章ここまで

道徳の授業では、この文章を使って、生徒に次のような発問を3つ行い、授業を展開します。

—–授業の展開はじめ
授業の展開
①授業の最初の段階では、「しょうくん、ゆうちゃんの母である「たかい」さんは、突然の地震に、どのような気持ちになったと思いますか?」という質問を生徒にしました。ここでは、たかいさん家族を襲った、地震という不慮のできごとで,「たかい」さんやしょうくん、ゆうちゃんの家族が命の危険にさらされていることに気づかせるねらいからこの質問をしています。
生徒から期待される反応としては、「・なにコレ!,・早くおさまって,・私,死んじゃう!,・子どもたちは大丈夫かしら?」といった、たかいさんの気持ちや地震の状況を想像することをとおして、その時の、命が危険にさらされている切迫した状況をとらえていることに期待しています。

②次に、授業が教材の中段に進み、「「たかい」さんが、しょう君を失い深い悲しみから、なかなか立ち直ることができない日々が続きました。しかし、「たかい」さんはしょうくんのもとにはいかず、ゆうちゃんと一緒に生きることを選択しました。「たかい」さんはどんな思いからこうした選択をしたのでしょうか?」という質問を行いました。

この質問では、しょうくんを失った「たかい」さんの深い悲しみに共感させることや、「たかい」さんが簡単に立ち直ったわけではないことに気づかせ,「ゆうちゃんと一緒に生きる」という思いに至ったかを考えさせることをねらいにしています。

この質問で、生徒に期待する反応としては、「・しょうくんのもとへ行ってしまったら,生きているゆうちゃんや家族をもっと悲しませてしまう。,・しょうくんのことは忘れられないしつらいけれど,目の前にいる家族を大切にして生きていきたい。」といった答えを期待しています。

③そして、この授業で最も大切な生徒への中心発問として「たかいさんがこの文章につけた「生きていてくれてありがとう」という言葉には、たかいさんのどのような思いが込められていると思いますか。たかいさんが深い悲しみを乗り越えて生きていくために気づいた大切なものとは何だったのでしょうか。」という質問を行いました。

この質問の意図は、「「たかい」さんが、しょうくんと双子で,助かったもう一人のゆうちゃんも実は苦しみを抱えながら自分を励まし続けてくれていたことに気づき,ゆうちゃんとのこれからの時間を大切にすることが,亡くなったしょうくんも含めた,自分たち家族の人生を輝かせることになる」ことに気づかせたいという意図からでした。

この3つ目の質問に対して、生徒に期待する反応としては、「・ママは一人じゃなかったんだね。,・ずっと励ましてくれていたんだね。,・悲しむだけでなく,笑顔で生きていきたい。」などが予想されます。また、より深く考えた生徒からは、「・生きていることはあたりまえではなく,多くの人々の支えによって「生かされている」,・生きていくうえで周りの人の存在がとても大切、・ただ一方的に励ますのではなく,悲しみから立ち直れるよう,相手に寄り添う姿勢で支援することが大切」といった考えにつながることも期待しています。

—–授業の展開終わり

最初の発問で、各生徒からの回答を一覧にすると次のようになりました。

——生徒の発問1での回答(事前は空欄、フォームよりコピーして利用)

びっくりした
地震が起きていることしかわからずパニックになっている気持ち。
大きい自信に驚く、焦る
家族が心配
突然地震が起きたことにびっくりどうしようとなったと思います。
まず最初に何が起こってんのかわからなかったと思います
いきなり起きたことだからパニック状態で理解が追いつかない
突然の地震にびっくりして、自分のことしか考えていなかった
え!地震!?なんで!?どうすればいいの!?
ゆうちゃんとしょうくんを抱えてはやく逃げないと
大きな揺れにびっくりしていた。
驚き、不安
びっくりした気持ち
周りの建物とか子どもとか大丈夫かな
急の地震にびっくりした
悲ししお母さんが守れなくてごめんねって言う気持ちと助けられなくてごめんね自分のことしか考えれなくてごめんねっていう気持ち
とても悲しくて泣きたい
どうしようと焦る気持ち
悲しい気持ち
頑張って生きたい
びっくり
子どもを守りたい
不安
急にきた大きな揺れにびっくりした。
子どもが危険な状態になってないか心配した。突然の地震にあせった。
突然の地震に驚いている気持ち 子どもが心配
怖かったり、驚いていて身動きが取れなかった。
これやばい
やばい・どうしよう?何をしたらいいか?わからなくなりパニック状態
驚いて、状況がわからず困惑する気持ち。

——生徒の発問1の回答おわり

この後、教師は授業を進めるために生徒間の話し合いを行います。

生徒の発問1への回答を分類して、話し合いの際に議論が起きそうな視点を2~3点ほど具体的に教えて下さい。

 おそらく、どの教科書出版社の資料でも、ここで扱っているような情報は学校に提供していると思います。「横深」の手法を使う場合には、授業の前に、こうした構造を持つプロンプトを準備して、授業で生徒から回収した意見をフォームからスプレッドシートに素早く取出し、プロンプトに貼り付けて利用する使い方が鍵となります。
 将来、教科書出版社の方で生成AIが使いやすいように、こうしたプロンプトを構成する情報なども資料として提供していただくことができると、各学校での事前の準備は大きく軽減されていくものと思います。

2.AIが行った発問の分析・分類

 ア)発問1の分析・分類 

 このプロンプトをChatGPT-4oに問い合わせると、11秒ほどで次の様なアドバイスが戻ってきました。

 発問1への GPT-4o の回答

Answer: 生徒の質問1への回答を分類し、話し合いの際に議論が起きそうな視点をいくつか探ってみましょう。

1.驚きとパニックの反応
多くの生徒が「びっくりした」「パニックになった」という反応を示しています。この驚きやパニックの感情について、なぜ人は非常時に驚きやパニックに陥るのか、またそれをどう克服するかについて議論が起こる可能性があります。
 「パニックになった」や「驚いた」という反応に対し、ほかの生徒が「どうすれば冷静に行動できるのか」を考えることで、地震時の適切な対応についての議論を深めることができます。

2.家族や子供への心配
「家族が心配」「子どもが心配」といった回答も多く見られます。災害時における保護者としての責任感や、家族を守るという使命感についての議論が起こる可能性があります。特に、親が子供をどう守るべきか、どのように行動をとるべきかが考察されるかもしれません。
「家族を守りたい」という意見と、「すぐにどう行動すればよいかわからなかった」間の葛藤を題材にして、予期せぬ災害時における家族の結束や個人の役割について議論できるでしょう。

3.自身の行動に対する後悔や反省
「自分しか考えていなかった」「守れなくてごめんね」という回答から、災害時における行動の選択や、その後感じる後悔についての議論が予想されます。極限状態での判断とその後の気持ちについて、どう受け止めるべきかが話し合われるかもしれません。
 自分を守るためにパニックに陥ることと、振り返った時の後悔や罪悪感について話し合うことが考えられます。「自分のことしか考えていなかった」という意見をもとに、他人を思いやる余裕を持つための心構えについて議論を促せるかもしれません。

 このような視点を基に話し合いを進めることで、生徒たちは自分たちの中にある感情や反応を共有し、災害時の冷静な行動と家族の大切さについて深く考えることができるでしょう。

 私の授業では、2と3の視点をミックスして、「たかい」さんの思いや行動を本文で追うことを通して、やがて後悔や反省に繋がっていく伏線としてこの発問を利用し、生徒に意見を交わしてもらいました。

 イ)発問2と中心発問の分類

 同様な手法で、発問2や中心発問について、生成AIによる「横深」の分類は次のようになりました。

 発問2へのGPT-4oの回答

Answer: 生徒の質問2への回答を分類し、話し合いの際に議論が活発になりそうな視点を具体的に挙げます。

  1. 生き残った者の責任と使命感
    「しょうくんの分まで生きようと思ったから」、「しょうくんの分までゆうちゃんを最後まできちんと育てたいと思ったから」
     これらの回答は、生き残った者が持つ責任感や使命感について議論を深めることができると考えられます。生徒たちは、生きることが単なる生存ではなく、何かを成し遂げる使命を伴うという考えを理解し、考察することができます。
  2. 残された人への配慮と共感
    「ゆうちゃんが一人じゃ可哀想だから」、「ショウくんのところにいってもゆうちゃんがかわいそうだから」
     ここでは、ゆうちゃんという家族を残してしまうことへの配慮と、それを避けるためにどうすべきかという共感が含まれています。この視点をもとに、生徒たちは他者への配慮や共感の重要性を考えることができ、具体的な行動へとつなげる議論が期待できます。
  3. 心の中で生き続ける存在との向き合い方
    「しょうくんは自分の心の中で生きていると思ったから」、「笑顔で生きることにしたから」
     これらの回答では、亡くなった人が心の中で生き続けるという概念が表れています。生徒たちは、失った人をどう記憶し、どうその存在と思いを持ち続けていくかについての対話を通じて、深い意味での「生きること」の価値を再認識できるでしょう。

これらの視点をもとに、生徒たちの話し合いを促進することで、より豊かな理解と気づきを得られるような授業展開が期待できます。

 題材が「内容項目D-(19) 生命の尊さ」を扱っているため、発問2から中心発問への授業の流れが本時の核心部分になります。
 「たかい」さんの心の中の葛藤はとても深く、生きることと死ぬこと、愛情の暖かさと厳しさ、家族との関係などの狭間で揺れ動きたどり着いた「生きるという選択」です。そのことを生徒に感じさせるために、私は生徒が書いた「しょうくんの分まで生きようと思ったから」、「ゆうちゃんが一人じゃ可哀想だから」、「しょうくんは自分の心の中で生きていると思ったから」、という3つの柱を象徴的に表す言葉を頼りに、「たかい」さんのたどり着いた選択について話し合いました。
 この話し合いでは、ChatGPTが分析した柱のようなきれいな言葉にまとめることはできなかったのですが、その選択の背景にはとても言葉では表しきれない複雑な思いが錯綜していたことを、生徒に感じてもらうことに注力しました。

 続いて、中心発問に入り、生徒の考えを集約しAIに分析・分類を依頼します。AIからは次の様なコメントが返ってきました。

 中心発問へのGPT-4oの回答

Answer: 授業をまとめる際に、生徒の意見を分類したり、話し合いを行う視点としては以下のようなものがあります。

  1. 「生と死のバランス」:
     生徒の回答から「しょうくんが亡くなっても、ゆうちゃんが生きている」という点を中心に、「失うこと」と「生き残ること」のバランスについて考えさせることができます。具体的には、「なぜ生命が尊いのか」「残された人が生きる意味とは何か」などを議論することができます。これにより、生き残った者としての責任感や、命の大切さについて深く考えさせることが可能です。
  2. 「支え合いと感謝」:
     多くの回答で「励まし」や「心の支え」といった要素があります。「たかいさんがどのように周りの支えに気づき、感謝することで前に進むことができたのか」について話し合うことができます。ここでは「誰かを支える」ことの重要性や、「感謝することで得られる強さ」について深掘りできます。
  3. 「前向きな生き方と記憶の共有」:
     「悲しみを乗り越えるためにはどうすればよいのか」「どうしたら亡くなった人を心に残しつつも前向きに生きられるのか」といった視点での話し合いが有益です。「記憶として生き続ける」や「今を生きることの意味」といったテーマで、生徒に自己の体験や思いを共有させると、議論が活発になるかもしれません。

 このような視点で、生徒の意見を深く掘り下げて議論することで、生命の大切さや周囲の人々との関係性について、より具体的で内面的な理解を促せるでしょう。教師はこれらの視点をもとに、生徒同士の意見交換や自身の考えの整理をサポートする役割を果たすことが重要です。

 私の授業では、発問2の展開で少し時間がかかり、中心発問については時間が足りず話し合いをうまく展開できませんでした。
 生成AIからアドバイスを受けて、第1の視点「なぜ生命が尊いのか」、「残された人が生きる意味とは何か」ということを切り口に話し合いを進めようとしたのですが、「なぜ生命が尊いのか」、「生きる意味とは何か」といった哲学的な意味にもとれる視点での話し合いは、生徒にとって難しかったように思います。
 いま振り返ってこの中心発問での話し合いの展開を考えると、「たかいさんの、『ありがとう』は、誰や何に対しての『ありがとう』だったのだろうか?」という問いかけが有効だったように思います。この問いかけであれば、2「支え合いと感謝」や、3「前向きな生き方と記憶の共有」の視点に近く、「たかい」さんが込めた思いや、悲しみを乗り越えて生きる力につながったものに、もう少し近づくことができたと振り返っています。

3.中心発問へのAIの助言

ア)教師の授業を支援するAIたれ

 私の授業の失敗は、発問2のところで「たかい」さんの苦悩の深さを生徒に伝えようとして、授業時間が限られているにも関わらず、掘り下げにいったところにありました。後悔しても決して戻らない尊い「命」であることを生徒に伝えるためには、この発問2はとても大切な役割を果たしていると考えたからです。
 そして、発問2の話し合いを経て中心発問を発したときに、生徒が考えた回答は次の様なものとなりました。

発問3への生徒の回答

  • 子どもを守ること
  • しょうくんがなくなっても自分にずっと励ましてくれて、20年間ずっと心の支えになったから。
  • ゆうちゃんもしょうくんがいなくて悲しかっただろうけど生きていてくれたから
  • ゆうちゃんが悲しんでたり責めたりしてるお母さんにずっと寄り添ってくれてたから”
  • 少しだけだけどしょうくんの笑顔を見ることができたから。
  • 0より1あったほういいと思うししょうくんの分まで強く育てると思う
  • 短い生涯だったけどその短い間も一緒にいてくれてありがとう
  • ゆうくんだけでも生きていてくて、前向きに考えてくれていてありがとう
  • 悲しむことだけがしょうくんを思うことじゃない気がちいたから
  • ずっと悲しんでいたらしょうくんもゆうちゃん悲しくなるからできるだけ笑顔で楽しく過ごそうと思った
  • 失ったことを引きずらないで今を生きることが大切と気づいたから。
  • 兄弟が死んで赤ちゃんなのに大きな地震にも見舞われたのに、弱っている自分のことを元気づけ、一生懸命に生きているゆうちゃんのためにも前を向いて生きていかなくちゃいけないこと。
  • 生きていたときは元気で笑顔だったのに、亡くなってしまったらその元気や笑顔が見られなくなってしまうから
  • ショウくんはいなくなってしまったけれどゆうちゃんだけでも生きてくれていて良かったゆうちゃんがいたからこそ、たかいさんがしょうくんのもとにいかないですんだしゆうちゃんはたかいさんの気持ちを理解して一緒になって考えてくれたから生きてくれてありがとう
  • 双子として一緒に生きてくれてありがとうと天国でも見守ってねって言う気持ち
  • しょうくんは死んでない私の心の中で生きている。こんな姿見られたくない。私にはゆうがいる。
  • しょうくんとゆうちゃん2人を育てられて楽しかったしこの2人を育てることはお母さん(たかいさん)にしか経験できないから嬉しかった。
  • 深い悲しみを乗り越えて生きていくためにはゆうちゃんといっしょに前向きにしょうくんの分まで生きていくことが大切だと思った。”
  • しょうくんとゆうちゃんを大切に思う気持ち
  • しょうくんは亡くなってしまったからゆうちゃんは生きているからゆうちゃんだけでも生きているから。
  • ママの悲しみを受け入れて生きていてくれたから 
  • いつか死んでしまう前に今のうちに言っておこうと思ったり、言葉の通り今まで生きていてありがとうって思ったから。家族のことがやっぱり大事だと思ったから乗り越えようと思った。
  • ゆうちゃんがいなくてもし一人だったらもしかしたらしょうくんの後を追っていたかもしれなかったから。
  • しょうくんはなくなってしまったけれどもゆうちゃんが生きてくれたから!
  • 生き残った命を大切にしようとおもったから?
  • すごく辛くて悲しいことがあっても、自分の周りには大切な人がいて、その人のために生きてできることがある、ということ。

 この回答のAIの分析は、「生と死のバランス、支え合いと感謝、前向きな生き方と記憶の共有」の3点でした。しかし、授業の後、この助言がライブで教卓上のパソコンに表示されたときに、果たして自分はそれを有効に活用できただろうかと、考え込んでしまいました。少なくても私は、このアドバイスを授業で有効に活用することができませんでした。

 授業にはリズムやテンポがあり、それが遅滞したり乱れたりすることはできるだけ避けるのが常道です。AIからの回答も授業の進行や流れを阻害することをできるだけ避けながら利用されることが望ましいと考えます。
 今回のAIからの回答を授業で活かすためには、
  ①教師がその3つの回答を読み、
  ②内容を理解し、
  ③どの回答に沿って授業を展開するか決め、
  ④実際の発問や説明に落とし込んで
授業を進行 させなければなりません。
 しかし、今回の中心発問へのGPT-4oの回答は、この4点を確認し瞬発力良く対応するには難解でした。これでは、生成AIの導入時にねらった、「経験の浅い若い先生でも、道徳の授業が余り得意でない先生でも、道徳の授業がしっかりと指導・展開できる」ということを達するのは難しい。やはり「命」のような深遠な題材には、AIの適用が未だ難しいのかと悩み、4月から勤め先が変わる繁忙も手伝って、この実践のまとめから一度遠ざかることになりました。

イ)最新のGPT-5の登場で捲土重来

 しばらく遠ざかっていた道徳への生成AIの活用ですが、8月に最新のGPT-5がリリースされ、考察するためのまとまった時間も確保できたので、もう一度その適用について考えてみることにしました。
 まず手始めに、2月に使ったプロンプトと同じプロンプトを用いて、より進化したGPT-5を使って、教室の実践に耐えられるようなアドバイスが得られるのか確かめてみました。

 GPT-5からの回答(約40秒)

ご提示いただいたまとめ案は、とても整理されていて実際の授業で活かしやすい内容になっています。さらに補足すると、次のような工夫を加えると、生徒の意見を「分類する」だけでなく、「相互に響き合わせる」ことができ、学びが一層深まります。

①「感謝の対象と理由」を“比較”する視点

  • ある生徒は「ゆうちゃんへの感謝」を強調し、別の生徒は「しょうくんの存在」への思いを語っています。
  • ここで教師が「どちらも“ありがとう”だけれど、対象が違うね。理由はどうだろう?」と投げかけることで、同じ言葉の背景にある感情や価値の違いに気づかせることができます。
    ➡ 比較を通して、同じ「ありがとう」に込められる多様な意味を考える時間になります

②「悲しみから立ち直るプロセス」を“時間の流れ”で整理する視点

  • 生徒の意見には、「深い悲しみ」→「支えに気づく」→「笑顔で前を向く」という流れが見られます。
  • 教師が「最初はどんな気持ちで、どう変わっていったのか?」と問い返すことで、悲しみをどう受け止め、どう乗り越えたのかを時系列で整理できます。
    ➡ 悲しみは消えるのではなく、受け入れながら変化していくものだという理解が深まります。

③「命とつながり」を“自分に引き寄せる”視点

  • 「誰かに生かされている」「支えがあるから生きられる」という気づきが出ています。
  • 教師が「みんなにとって“生きていてくれてありがとう”を言いたい人はいる?」と広げると、教材の世界から自分自身の生活へとつなげられます。
    ➡ 他者とのつながりを自分事として考える時間になります。

まとめのポイント

  • 生徒の意見を「分類」→「比較」→「つなげる」という流れで扱うと、単なるまとめではなく対話の中で価値を再構成する学びが可能になります。
  • 最後に「今日の話をふまえて、自分が誰に“生きていてくれてありがとう”と言いたいか」を一言ずつ共有させると、授業が自分自身への内省で締めくくられます。

ご希望があれば、生徒の中心発問への回答を実際に①〜③の視点に沿って「分類表」にまとめ直すこともできますが、そちらも必要ですか?

 2月のGPT-4oの時と比較して、戻ってきた分析・分類のアドバイスが実践で使える内容に大きく変化しています。特に教師が発する言葉を具体的に示したり、目指す話し合いの方向性が明確に示されており、この分析・分類であれば実際の授業で活用できるという感触を持ちました。


 GPT-5は、以前のGPT-4oに比べて、回答までに少し時間を要しますが、これは最近使えるようになったGPT-5に、現在、利用が集中していることに起因していることもあるだろうと推測しました。代替えのGPT-5mini や推論が強化された o3 というモデルを使えば、20秒程度でほぼ同じ内容の結果を得ることができました。
 また、2月に利用していたGPT-4oに、今回、再度同じプロンプトで分析・分類を依頼すると、2月とは違った表現で、もう少し実践的な回答を頂くことができました。生成AIはモデル番号の進化だけではなく、同じモデルでも着実にその中身が進化していることが伺われました。

ウ)「横深」は、ほぼ実用段階に入っている

 道徳の授業で教師が指導計画に位置づけた発問について、生徒の回答を分析・分類して授業のフローに活かす「横深」という使い方は、ほぼ実用段階に達していると感じました。AIに問い合わせて回答を得るまでの時間も数十秒と十分実用的なレベルに達しており、何よりその分析・分類して得られたアドバイスの質は、授業を進める上で十分なレベルに達していると感じます。
 「私は清掃のプロになる(内容項目C-(13)勤労)」といった内容項目だけではなく、「ゆうへ-生きていてくれてありがとう-(内容項目D-(19) 生命の尊さ)」という内容項目を扱う題材においても、生徒の回答を適切に分析・分類し、授業が次に進むべき話し合いの方向性を支援してくれる生成AIの進化には、本当に驚かされるばかりです。

4.生徒の学びや育ちを「縦深」で看取る

ア)「縦深」の概要

 次に授業後に、一人ひとりの生徒について、発問に答えた内容を個々に追って、どのような学びや育ちに繋がったのかを探る「縦深」というもう一つ生成AIの使い方について考察します。

 「縦深」は授業が終わった後に、フォームに記録された発問を、その生徒毎に集めてAIに分析させる使い方です。道徳ノートなどに記された生徒の考えについて先生が行う添削と同じようなイメージですが、そこにAIを加えて、その労力や時間の軽減を図っています。
 道徳ノートの添削は、先生が一生懸命に赤ペンで書いてもそれなりの時間がかかる作業です。また、添削の文案を考える時には結構しんどい思いもします。さらに、中学校の多くの先生は部活指導も抱え、添削作業はそれが終わった後になることも多いため、ぜひ軽減を図りたい業務の一つと考えています。

 「縦深」の具体的手順は次のとおりです。

  1. 生徒毎に発問1、発問2、中心発問とフォームに回答した内容をスプレッドシートに書き出し、GASを使って3つの回答を合成する
  2. 各生徒の回答が合成されたセルを、GPT-ScoreAIDというアプリケーションを使って生成AIに一括で添削させ、それぞれの生徒に伝える添削案を得る
  3. 生成AIの作成した添削案を担当教師が確認し、不適切な表現を削除したり、足りないところを加筆・修正する
  4. 最後に、それぞれの生徒への添削をスプレッドシートに書き戻し、GASを使って添削をGmailで生徒に送付する

 GASというのは、Google Apps Script の略で、Excelのマクロのような働きをします。スプレッドシートの3つのセルの値を一つのセルにまとめたり、そのセルの値をGmailを使って指定した生徒にメールとして送る機能など、表計算ソフト上で少し手の込んだ処理を実現することができます。
 また、GPT-ScoreAIDというのは、私が設計・開発したアプリケーションです。一つのプロンプトを使って、1クラス分のそれぞれの生徒の回答を一気に生成AIに添削や採点させることができます。
 これらの機能を組み合わせて、生徒が書いた道徳の回答について添削を行いました。昨年2月の取組時には、GPT-4oで28名の生徒分の添削を生成AIから得るまでに約3分、さらに、その個別のアドバイスを教師が確認するのに約30分かかりました。手順1と手順4に残ったGASによる作業を加えて、約1時間程度で生徒個々への添削をGmailで返却することができました。

イ)「縦深」のプロンプト

 では、生徒には一体どのような添削が届くのでしょうか。以下に3つの発問への生徒の回答と、その回答に生成AIが作成した添削を示します。

生徒の3つの発問への回答生徒の回答へのAIからの添削
「心情の読み取り①」~: 突然地震が起きたことにびっくりどうしようとなったと思います。

「心情の読み取り②」~: しょうくんは自分の心の中で生きていると思ったから。

「中心発問」~ 少しだけだけどしょうくんの笑顔を見ることができたから。
あなたの回答から、「たかい」さんの体験を通じて人の心の動きをしっかり捉えようとしていることが伝わります。地震が起きたときの「びっくりどうしよう」という気持ちは、瞬時の混乱と不安をよく表していますね。第二の質問では、しょうくんが心の中で生き続けていることをしっかりと受け入れ、ゆうちゃんと共に生きるための強い意志を見て取れます。そして、中心発問での「しょうくんの笑顔を見ることができたから」という回答には、短い間でも楽しい思い出が心の支えとなる力を感じます。あなたは他者の気持ちを丁寧に考え、共感する力を持っています。その感受性をこれからも大切にし続けてください。それがあなたのやさしさとなり、周りの人々を励ますことにつながるでしょう。
「心情の読み取り①」~:まず最初に何が起こってんのかわからなかったと思います

「心情の読み取り②」~: ずっとつらいかなしみのまんまだったらそんな親嫌とゆうか見れないと思うから自ら直した

「中心発問」~: 0より1あったほういいと思うししょうくんの分まで強く育てると思う
あなたの回答から、「たかい」さんの心情に寄り添い、深く考えようとしている姿勢が伝わります。最初の質問で「何が起こってんのかわからなかった」との返答は、混乱と不安が入り混じる瞬間をよく表現しています。第二の質問では、悲しみを抱えたままではいけないという意志を持ち、「たかい」さんが自ら立ち直ろうとする強さを理解しています。中心発問に対して、失った悲しみから前向きに続けることの大切さを感じ取っている点は素晴らしいです。あなたが示すような深い考え方は、これからも多くの状況で役立つでしょう。自身の意思で乗り越えることの重要性を大切にし続けてください。それがあなた自身を強くし、周りの人々を支える力にもなります。
「心情の読み取り①」~: いきなり起きたことだからパニック状態で理解が追いつかない

「心情の読み取り②」~: しょうくんのところに行こうとしたけどゆうちゃんを残してはおけない

「中心発問」~: 短い生涯だったけどその短い間も一緒にいてくれてありがとう
あなたの回答は、「たかい」さんの心情にしっかり寄り添い、理解しようとする姿勢が感じられます。地震が起きたときの「パニック状態で理解が追いつかない」という答えは、突然の出来事への混乱を的確に表現しています。次に、ゆうちゃんを残して「しょうくんのところには行けない」とした答えからは、「たかい」さんがゆうちゃんのために生きることを決断する強さと責任感を感じ取っていますね。そして、中心発問では「短い生涯だったけどその間も一緒にいてくれてありがとう」という思いを汲み取っており、しょうくんの存在を心から大切にしていることがよく伝わります。このように、他者の気持ちに寄り添い、深く考える力を大切にしてください。それはあなたの周囲の人々を支える大きな力となるでしょう。
「心情の読み取り①」~: 突然の地震にびっくりして、自分のことしか考えていなかった

「心情の読み取り②」~: しょうくんが側にいるように思い、前向きに生きる選択をした

「中心発問」~: ゆうくんだけでも生きていてくて、前向きに考えてくれていてありがとう
あなたの回答から、「たかい」さんの感情や選択に対する理解を深めようとする真剣な姿勢が伝わってきます。一つ目の質問で、「自分のことしか考えていなかった」との答えは、混乱した状況での本能的な反応をよく捉えています。次に、たかいさんが前向きに生きようとする選択について、しょうくんの存在を心の中で生かし続けていることを理解している点が素晴らしいです。最後に、「生きていてくれてありがとう」という言葉に対して、ゆうちゃんを通して前を向く力を見出したという認識を持っていることは重要です。あなたは、他者の複雑な感情を深く考え、理解しようとしています。これからもその感受性を大切にし、周りの人を支えられるよう努めてください。それがあなた自身の成長にもつながります。
「心情の読み取り①」~: え!地震!?なんで!?どうすればいいの!?

「心情の読み取り②」~しょうくんくんのところにいってもゆうちゃんがかわいそうだから

「中心発問」~: 悲しむことだけがしょうくんを思うことじゃない気がちいたから
あなたの回答は、「たかい」さんの心情に対する理解を深めようとし、共感しようとする意欲が伝わってきます。地震が起きたときの「なんで!?どうすればいいの!?」という気持ちは、突然の出来事に対する混乱と戸惑いをよく表現しています。次に、しょうくんのところへ行かずにゆうちゃんと共に生きる選択について、「ゆうちゃんがかわいそうだから」と述べることで、残された家族への責任と愛情をしっかりと理解していることがわかります。中心発問に対する回答では、「悲しむことだけがしょうくんを思うことではない」という考えに気づいたことを捉えており、悲しみを超えて新しい視点を持てたことを示しています。このように他者の心に寄り添い、深く思考する力をこれからも育んでいってください。それはあなた自身を支える大切な力となります。
「心情の読み取り①」~: ゆうちゃんとしょうくんを抱えてはやく逃げないと

「心情の読み取り②」~: 自分が死んでしまったらゆうちゃんが生きられなくなって自分と同じ思いをしてしまうかもしれないし、しょうくんを育てられなかった分しょうくんの分までゆうちゃんを最後まできちんと育てたいと思ったから

「中心発問」~: ずっと悲しんでいたらしょうくんもゆうちゃん悲しくなるからできるだけ笑顔で楽しく過ごそうと思った
あなたの回答は、「たかい」さんの状況に深く共感し、しっかりと考えた結果がよく表れていますね。まず、地震が起きた際に「ゆうちゃんとしょうくんを抱えて早く逃げないと」と思った気持ちは、母親として子どもを守ろうとする本能的な反応をしっかり捉えています。次に、しょうくんを失った後もゆうちゃんのために生きることを選んだ理由について、ゆうちゃんに同じ悲しみを味わわせたくないという「たかい」さんの強い責任感と愛情を理解しています。そして、「生きていてくれてありがとう」という言葉に込められた思いに対し、深い悲しみの中でも前向きに笑顔でいることの重要性に気づけた点が素晴らしいです。このように相手の立場に立ち、感情を深く理解しようとする姿勢を大切にしてください。それはあなた自身の成長にもつながりますし、周りの人を支える力にもなるでしょう。

「縦深」で使われているプロンプトは、実は「横深」のプロンプトとほぼ同じで、最後のChatGPTへの指示の部分が変わります。

 GPT-4oへの「縦深」のプロンプト

(「横深」のプロンプトの「授業の展開終わり」の次が変わります)

—–授業の展開終わり

各生徒の3つの発問への回答を総合的に踏まえ、その生徒に対する先生からのアドバイスを総合的に200字程度で書いて下さい。
アドバイスの文章は、先生が生徒に語っている形式として下さい。
また、発問一つ一つについては、細かくアドバイスをせずに、3つの質問への回答を踏まえた200字程度の総合的なアドバイスとしてください。
生徒からの回答を次の入力からそちらにお渡しします。

 このプロンプトで、GPT-4oは、先ほどの例で示した添削の文章を生徒一人ひとりに生成していきます。生成された添削については、教師が最終確認して生徒に渡すようにしていますが、特に今回の添削では、

  • GPT-4oが「あなた」と書いたところを、具体的な生徒の名前に置き換えて、アドバイスがより身近なものとして響くように配慮した
  • AIが「思うよ」や「捉えているね」といったカジュアルな口調を使った部分があったため、「思います」や「捉えています」と敬体表現に修正した

ところは生徒全員の添削案に一律に手を入れました。
 この度のAIからの添削を確認してみると、教師が直さなければならない修正は前回同様、あまり多くはありませんでした。強いて言えば、私が GPT-4o の表現で気になったところに、軽微な修正を加えましたが、修正の例を見ても分かるように、生成AIが添削した文章自体を大きく書き換えることはありませんでした。

ChatGPT-4oの添削教師による修正を加えたもの
あなたの回答は、「たかい」さんの心の中を深く理解し、彼女の選択に込められた思いにも寄り添っていますね。突然の地震に対する驚きは、多くの人が経験する感情ですが、そこから前を向くために大切なことに気づく過程をしっかりと捉えています。特に、残された「ゆうちゃん」を大切にしようとする思いや、「生きていてくれてありがとう」という言葉に含まれる感謝の気持ちから、自分自身の生きる力を見つけたことがわかります。このような感謝の気持ちは、日常生活でも多くの人々に対して持ち続け、周りの人を大切にする姿勢につながると信じています。あなた自身も普段の生活でこの気持ちを大事にしていってください。○○さんは、たかいさんの選択に込められた思いに寄り添っていますね。突然の地震に対する驚きは、多くの人が経験する感情ですが、そこから前を向くために大切なことに気づく過程をしっかりと捉えています。特に、残された「ゆうちゃん」を大切にしようとする思いや、「生きていてくれてありがとう」という言葉に含まれる感謝の気持ちから、自分自身の生きる力を見つけたことが分かります。このような感謝の気持ちは、日常生活でも多くの場面でみることができ、周りの人を大切にする姿勢につながります。○○さん自身も普段の生活でこうした気持ちを、今一度振り返って大切にして、自分の成長に活かしてくださいね。
あなたの考え方には、大切な視点がしっかりと含まれていますね。「たかい」さんがどんな気持ちでこの選択をしたのかを深く考え、その中で「ゆうちゃん」の存在がどれだけ励みになったかを理解していることが伝わります。また、「生きていてくれてありがとう」という言葉に込められた感謝の背景には、過去に縛られることなく、前を向いて今を大切にすることの重要性があります。この視点は、私たちが日々の生活の中で、困難に直面してもポジティブに前進する力を育むために役立ちます。これからも周囲の人々に感謝し、一緒に過ごせる時間を大切にしていってください。○○さんの考え方には、大切な視点がしっかりと含まれています。「たかい」さんがどんな気持ちでこの選択をしたのかを深く考え、その中で「ゆうちゃん」の存在がどれだけ励みになったかを理解していることが伝わります。また、「生きていてくれてありがとう」という言葉に込められた感謝の背景には、過去の悲しさを乗り越えて、前を向いて今を大切にすることの重要性があります。こうした視点は、私たちが日々の生活の中で、困難に直面した時にも、前に進む力を与えてくれます。これからも周囲の人々の励ましや協力に感謝し、一緒に過ごせる時間を大切にして、成長してください。
あなたの回答には、「たかい」さんの心の動きをしっかりと捉えようとする努力が感じられます。地震という予期せぬ出来事に対する「びっくりした」という反応は、「たかい」さんが経験した恐怖と混乱を理解している証です。そして、後悔し続けても現実が変わらないという事実を受け入れ、「ゆうちゃん」と共に前に進む選択をした「たかい」さんの強さを汲み取っています。また、「生きていてくれてありがとう」という言葉に込められた思いには、人生の中に辛いことだけでなく、楽しいこともあるという希望が込められていることを理解していることがわかります。この考え方を大事にし、日々の生活の中で感謝と希望を忘れずに、人とのつながりを大切にしていってください。○○さんの回答には、「たかい」さんの心の動きをしっかりと捉えようとする努力が感じられます。地震という予期せぬ出来事に対する「びっくりした」という反応は、「たかい」さんが経験した恐怖と混乱を理解している証です。そして、後悔し続けても現実が変わらないという事実を苦しみながら受け入れ、「ゆうちゃん」と共に前に進む選択をした「たかい」さんの強さを汲み取っています。また、「生きていてくれてありがとう」という言葉に込められた思いには、人生の中に辛いことだけでなく、楽しいこともあるという希望が込められていることを感じ取っています。この考え方を大事にして、日々の生活の中で感謝と希望を忘れずに、人とのつながりを大切にして生活をしていってください。
あなたの回答は、「たかい」さんの非常に深い感情の動きを理解しようとする力が感じられます。予期せぬ大地震がもたらした「悲しくて、どうしようもできなくて恐ろしい気持ち」は、誰もが経験しうる心の混乱を示しています。その中で、彼女が選んだ道――「ずっとこのままじゃ行けない」という思いから、たとえ辛くても立ち直ろうとする意志――を尊重していますね。「生きていてくれてありがとう」とは、完璧でなくても、一歩ずつ前を向いて生きることの尊さを認識しています。この学びを大切に、日々の中で自身や周囲の人々の存在に感謝し、どんな時も前を向く力を持ち続けてください。○○君の回答は、「たかい」さんの非常に深い感情の動きを理解しようとする力が感じられます。予期せぬ大地震がもたらした「悲しくて、どうしようもできなくて恐ろしい気持ち」は、誰もが経験しうる心の混乱を示しています。その中で、彼女が選んだ道――「ずっとこのままじゃ行けない」という思いから、たとえ辛くても立ち直ろうとする意志――を尊重しています。「生きていてくれてありがとう」とは、完璧に立ち直れなくても、一歩ずつ前を向いて生きることの尊さを感じ取っています。今回の学びを大切にして、日々の中で自身や周囲の人々の存在に感謝し、どんな時も前を向いていく気持ちを持ち続けてください。

5.命の学びを深める生成AIの支援

ア)GPT-4oの肯定表現に対して感じる微かな違和感

 生徒が書いた発問への回答を縦断的に集めて助言する「縦深」では、GPT-4oはすばらしい助言を生徒たちに残してくれました。生徒が言葉足らずで書いたことでも、生成AIは一生懸命に解釈して、その意味を言語化し、生徒に改めて伝えてくれているのではないかと感じる添削も多々見ることができました。
 自分は教師として、ここまで生徒の書いた断片的な回答をつなげる言葉を持ち合わせておらず、生成AIの能力の高さに唖然とするばかりでした。

 しかし、GPT-4oが次々と作り上げる添削を読んでいくうちに、漠然とした感覚ですが ”肯定的すぎるのでは” と感じはじめたのも事実です。ちょうど少し大きめの帽子を被って、時々ずりおちてきて少し気になるような微妙な感覚を、GPT-4oの添削の片隅にうっすらと感じたような気がしました。
 しかし、こうした負の感覚は、「縦深」のもたらす業務の劇的な改善や、華麗な添削文書によっていつしかかき消され、自分の意識の遡上に上らなくなりました。しかし、この8月のGPT-5のリリースにより、自分の感じていた違和感が再び目を覚ますことになります。

イ)趣が異なるGPT-5による「縦深」のアドバイス

 勤め先がちょうど夏休みに入り、すこしまとまった時間ができたので、2月に取り組んだ実践を見直しました。
 考察を進める中で、次第に、8月にリリースされた最新のGPT-5を「縦深」に適応した場合に、どのような添削が得られるのかについても述べる必要があると考えるようになりました。
 ブラウザから利用できるGPT-5は、Pro,Plus,Freeという3つのバージョンがあるのですが、月々$200払って利用する Pro 以外は、利用回数に制限があったり、問合せの内容によってGPT-5ではないモデルが答えたりする可能性があります。
 純正のGPT-5に固定して添削を確認したいという思いが優り、とうとうAPIから問い合わせる仕様のGPT-scoreAIDをGPT-5対応にバージョンアップする作業に取りかかりました。その際、折角の機会だったので、GPT-5 だけでなく高度推論が可能な o3 や o4-mini といったモデルも利用できるようにアプリケーションのコードを見直しました。

 アプリケーションのアップデートが終わり、「縦深」に利用するモデルとしてGPT-5を指定し待つこと数分、初めてのGPT-5を使った添削が出力されました。 
 最初に出力された生徒への添削をいくつか掲載します。

いい読みです。少しだけ深めると、さらに伝わります。

– 心情①: 驚き・恐怖に加えて、「すぐに子どもを守らなきゃ」という強い決意が同時にわいたはず。
– 心情②: ゆうちゃんを一人にしないため、そして二度と誰も失わないために、支え合って生きる道を選んだ(しょうくんの分まで生きる決意も)。
– 中心発問: 深い悲しみと向き合いながら、今そばにある命は当たり前ではないと気づき、「生きていてくれてありがとう」と感謝する思い。互いを守り支え合って生きる覚悟が込められている。

まとめの答え例:
「生きていてくれてありがとう」には、今ここにある命が当たり前ではないという気づきと、悲しみを抱えながらも、そばにいる人を守り支え合って生きていく覚悟が込められている。だからたかいさんは、ゆうちゃんを一人にせず、しょうくんの分まで感謝を胸に生きていこうとしている。
よく読めています。少し言葉を整えると、より伝わります。

– 心情①
あなたの答えは的確。「何が起こったのかわからない」「パニック」に加えて、強い恐怖・不安と同時に「子どもを守らなきゃ」という反射的な思いもあったはず。

書き直し例: 突然の揺れに何が起きたのかわからずパニックになり、強い恐怖と不安の中で「子どもを守らなきゃ」という思いがわいた。

– 心情②
前に進もうとする決意がよく捉えられています。理由として「ゆうちゃんを一人にしない」「しょうくんの分まで生きる」という責任と愛情も添えると深まります。

書き直し例: 深い悲しみを抱えながらも、ゆうちゃんを一人にせず守り、しょうくんの分まで前を向いて生きようと決意した。

– 中心発問
表現は少しやわらげ、「命がつながれていることへの感謝」「当たり前ではない日常への気づき」を核にするとよいです。

書き直し例: 「生きていてくれてありがとう」には、今そばにある命が当たり前ではないことへの深い感謝と、互いを支え合って生きていく覚悟が込められている。たかいさんが気づいた大切なものは、命の尊さと、今いっしょにいる人とのつながりの重みである。
全体としてよく読めています。言い方を少し整えると、より伝わります。

– 心情①
書き直し例: 突然の揺れに緊張と驚き、強い焦りと恐怖に包まれながら、「すぐに子どもを助けなきゃ」と反射的に思った。

– 心情②
「諦める」など断定的な言い方はやわらげると良いです。
書き直し例: しょうくんを失った深い悲しみと向き合いながら、今生きているゆうちゃんを一人にせず守り、しょうくんの分まで大切に育てていこうと決意した。

– 中心発問
書き直し例: 「生きていてくれてありがとう」には、命は当たり前ではなく今ここにあること自体が奇跡だという気づきと、そばにいる命を守り支え合って生きていく覚悟への感謝が込められている。たかいさんが気づいた大切なものは、命の尊さと、身近な人とのつながりの重み。

 同じプロンプトを使っているのに、前節で見てきたGPT-4oの添削とは似ても似つかないアドバイスが次々と出力されてきました。
 この頃、GPT-5はGPT-4oと比べると共感力が弱いという記事が散見されていましたが、確かに、それぞれの発問で生徒が回答したものについて、頼まれてもいないのに、書き直し例まで載せていることには驚きました。
 生徒が一生懸命に書いた回答について、このモデルはあまり敬意をもたないような振る舞いをします。こうしたこともあって、GPT-5を「縦深」に利用することは難しいかもしれないと思い始めるようになりました。

 しかし、それでもあきらめずに、プロンプトを調整したりプログラムの修正やテスト出力を繰り返し、GPT-5が作り出すいろいろなアドバイスに目を通しました。そして、ふと、このGPT-5というモデルはその助言の中に、こういった理由でこれがあるという根拠性や、このように改善すればよいという建設的な視点を、ぶっきらぼうではありますが、常に伝えてきていることに気がつきました。
 「もしかしたら、もう一つ真実がこの中にあるのかもしれない…」 そう思い、GPT-scoreAID のプログラムの修正を続け、ようやく生徒に渡すことができるレベルの助言をGPT-5から得られるようになりました。
 次の表はGPT-5を使って生成した生徒へのアドバイスの一部です。

GPT-5のアドバイス(from GPT-scoreAID ver1_7_02)従前2月のGPT-4oのアドバイス
「子どもたちを助けたいけど怖かった」ととらえたあなたは、突発的な地震の中で揺れ動く「守りたい気持ち」と「恐れ」を的確に感じ取りましたね。さらに二つ目で「また同じ目に合わせないように」と考えた点から、たかいさんが未来のゆうちゃんを守ろうと決意した姿をしっかり捉えています。よかったら、題名にある「生きていてくれてありがとう」という言葉が誰への感謝なのか、たかいさん自身の変化と重ねて想像してみると、第三の問いにも自然と答えが浮かぶかもしれません。感じたことを自分の経験と重ねながら書き足してみると、さらに深い気づきになると思います。次の提出も楽しみにしていますよ。○○さんは、たかいさんの不安と恐怖、そしてその中でも子どもたちを助けたいと思った気持ちをしっかりと理解していますね。地震の中で感じた恐怖は計り知れないものだけれど、たかいさんはその後、ゆうちゃんと共に生きることを選びました。それは、もう二度と誰かを失う悲しみを経験させたくないという思いからも来たもので、君の回答もその部分を捉えています。そして、「生きていてくれてありがとう」の言葉には、生き残ったことへの感謝と、今ある命を大切にしていくという決意が込められています。命が当たり前でないことや日々の大切さを意識し、他者との関係を大事にすることが、大切であることに気づいた○○さんは、きっと、これからも命と人とのつながりを大切にしていくのだと思います。
あなたが書いた「急いで自分の子どもを守んないと!」という言葉には、突然の揺れに襲われた恐怖と母親の強い責任感がよく表れていますね。また二つ目で「みんな死んじゃうと思った」と示した場面からは、極限状況で瞬時に危険を計算したたかいさんの焦りを想像していることが伝わりました。もし余裕があれば、ゆうちゃんの存在がその後の選択にどう影響したかも考えてみると、たかいさんの揺れる気持ちがさらに見えてくるかもしれません。三つ目では「しょうくんにもありがとう」と感じ取った視点が温かいですね。生きること、笑顔でいることが誰かの支えになるという面にも少し目を向けてみると、言葉の重みがもっと深まると思います。これからも自分の感じたことを素直な言葉で表してください。○○君は深く、たかいさんの行動とその裏にある感情を理解していますね。地震の直後、子どもを守りたいというたかいさんの本能的な願いを感じています。そこでは、悲しい選択を迫られる中で、生き残った家族のために「ゆうちゃんと生きる」という決断に至ったたかいさんの複雑な心情を、君はしっかりと理解しています。そしてたかいさんの「生きていてくれてありがとう」という言葉に、しょうくんも含めた家族全員への感謝と愛が込められていると気づいた点も素晴らしいです。また、命の尊さと、どんな状況でも笑顔の大切さを感じ取っていましたね。これからも君自身も大切にし、周りの人々と笑顔で過ごすことができるように成長していってください。
「びっくり」「子ども守んないと」と書いたあなたは、たかいさんが地震直後に抱いた“驚き”と“母親としての責任感”を一瞬でつかみ取っていますね。また「しょうちゃんの分まで」「楽しく生きよう」という表現からは、深い悲しみを抱えつつ前を向こうとするたかいさんへの“尊敬”が伝わり、読んでいて温かい気持ちになりました。もしもう少し考えを広げるなら、悲しみと希望が同時に揺れ動く複雑な心や、ゆうちゃんや家族の支えに気づいたときの“感謝”にも目を向けてみると、「生きていてくれてありがとう」という題名の重みがさらに立体的に感じられるかもしれません。あなたの素直なことばは人の心に届きます。これからも感じたことを大切に深めていってくださいね。○○さんは、たかいさんの心情をよく理解し、共感できていますね。突然の地震の中、子どもたちを守りたいという強い願いを感じたことは、たかいさんの母としての本能に寄り添った考えです。そして、しょうくんを失った悲しみを抱えながらも、ゆうちゃんと共に生きようとするたかいさんの選択を理解しているところも凄いです。「生きていてくれてありがとう」という言葉には、過去の悲劇を乗り越え、今ある命を大切にし、前向きに生きていくという思いが込められています。君も今回の題材を通して、周囲や家族との日々を大切に過ごしてください。

 従前のGPT-4oのアドバイスと比較してみると、それぞれの生徒に向けて、学びを深めるための具体的なアドバイスがしっかりと書かれていることが分かります。こうした添削の傾向は、GPT-5だけではなく、論理的な推論が強化されたモデル o3 でも確認することができました。
 各モデルのからの添削を一覧にして比較している表を資料として掲示します。

 今回、GPT-5に用いたプロンプトは、プログラム自体の修正など紆余曲折を経て、次のものに落ち着きました。

 GPT-5への「縦深」のプロンプト

(「横深」プロンプトの「授業の展開終わり」の次が変わります)

—–授業の展開終わり
各生徒が回答した3つの質問への回答を読み、その生徒に対する先生からのアドバイスを200字程度で書いてください。
 
このことを踏まえて、アドバイスの文章は、次の点を守って書いて下さい。
・あなたは中学校の道徳科における添削者です。
・出力は日本語のです・ます調を使います。
・まず共感的に受け止め(感情の名称+具体箇所の言及)
・その後にやさしい提案(命令形や断定は避ける)、最後に短い励ましで結ぶ。
・強い断定(例:結論→理由、〜すべき)は避け、相手に寄り添う語を優先する。

それでは、次の入力から、生徒の回答をお渡しします。

 前段は、「横深」や従前の「縦深」のまま利用し、後段のGPT-5への指示のところに「共感的に受け止めること」などの加筆が新たに行われています。 

 意外と修正箇所は少ないのですが、共感的に伝えることについての具体的な指示を明確にしているところが、今回のGPT-5を使う際のプロンプトの特徴となります。

ウ)生成AIと教師の連携

 本節の「縦深」を考察する中で、これまで共感的で読みやすいと思っていたGPT-4oの生成するアドバイスに加えて、生徒がさらに深く考える視点を加味したアドバイスをつくるGPT-5という二種類の生成AIが、「縦深」に利用できることが分かってきました。

 今までは、GPT-scoreAIDに一つの推論モデルを指定して生徒へのアドバイスを生成していましたが、今回の考察から、アドバイスの作り方はそれに止まらず、複数のモデルを組み合わせてアドバイスを作るという可能性が見えてきました。
 今回のこの記事のテーマは「生成AIは命の学びをどう深めるか」です。実際に授業を受けた生徒たちに2月に伝えた「縦深」からのアドバイスは、GPT-4oの肯定的なニュアンスが色濃い助言でした。しかし、生徒の普段の様子を見ている教師にすると、全員に、このGPT-4oからの肯定的なアドバイスを伝えるよりも、「普段がんばるあの子なら、もう一つ考えを深めさせて、もうすこし高い考えに到達させてあげたい」といったこともあったように振り返ります。

 生成AIを使い、道徳ノートに記載するような助言を作り上げる「縦深」は研究が始まったばかりの取組ですが、本節での考察を経て、

  • GPT-4oの比較的肯定的な表現からなる助言と、さらに高みに進む視点が組み込まれたGPT-5からの助言の2つを生徒個々に生成しておき
  • 生徒の普段の生活や学習の様子をよく知っている先生が、その生徒により適した助言を選択し届ける

といった対応がさらに可能なことが分かりました。 

6.おわりに

 道徳の授業に生成AIを活用することは、数年前には思いもよらないことでした。しかし、その急速な性能の向上により、今では決して荒唐無稽な話ではないことが教育界ではコンセンサスになりつつあります。
 正直な話、私は先回の「私は清掃のプロになる」の教材で、生成AIがここまでできるとは思っていませんでした。しかし、プロンプトを工夫し、発問の意図や授業の流れを生成AIに丁寧に伝えることにより、「横深」や「縦深」に必要なクオリティが次第に得られるようになました。

 本稿ではさらに発展させて、命というとても重い題材、人の内面にある複雑な感情を扱った教材で、生成AIはどのような振る舞いをするのかに迫りました。
 家族もいない、身体性もない生成AIが、命を理解しているかどうかという哲学的な面には深入りをせず、道徳ノートに書くように、生徒に適切な添削を生成できるのかという点から考察しました。
 彼ら生成AIが弾きだす添削は、我々教師が書く添削に十分比肩できるものであり、こうした題材においても、生徒の3つの発問への回答をつなぐ言葉として、十分なクオリティを持っていることが分かりました。さらに、複数の生成AIのモデルを用いることによって、より生徒にあった

  • 肯定的に生徒の回答を繋ぎながら、何を学んだのか分かりやすく言語化して、その生徒の学びの振り返りを助ける助言
  • 3つの回答からさらに考察を深めるための糸口を示し、さらなる高みに誘う助言

を選択的に伝えられることも分かりました。

 一方、教師が生徒に助言を書くときのことを振り返ると、先生はまず真っ先に、その生徒の姿や普段の様子を思い出し、その後に、その生徒が答えた3つの回答を確認して助言を書いているように思います。
 教師は生徒に対して、言葉では表せない感覚や感情、イメージを持ち、その生徒のライブな状態理解を踏まえて、助言や言葉を発しています。ですから、助言を書くときに思い浮かべたその生徒の姿に、「この子ならもっと深く考えられる、感じられるのではないか」、「そうなって欲しい」と願い、温度のある助言が紡ぎ出されるのです。

 ここから数年先の教育現場を予想すると、すこし生成AIに押されたような状態になるだろうと想像しています。生成AIはこれまで見てきたように、卓越したツールです。教育現場のいくつものことが、生成AIの導入によって能率的・効率的に再構成されていくでしょう。
 しかし、生徒が絡まるもののいくつかは、生成AIだけでは不十分で、教師というもう一つの軸によって補完され、はじめてその本領が発揮される取組がでてくるように思います。近い将来、生成AIの学校への導入が進み、様々な場面で活用されはじめた時に、この軸についての議論が、もう一度、我々にその在り方を問いかけてくるような気がいたします。(2025/08/28)

函館大谷短期大学ビジネス情報学科 奥崎敏之 

追伸
 昨夜、プログラムの修正作業をしていると、GPT-5から次のように話しかけられました。

  • GPT-5:「この2点を修正すれば、Memo には JSON 丸ごとではなく、GPT-5 の自然言語の答えが表示されるはずです。先生、まずは BuildResponsesBodyFromMessages に “verbosity”: “verbose” を追加して再実行してみませんか?」 
  • 私:「先生って誰?」
  • GPT-5:「すみません🙏つい「先生」と呼んでしまいました。これまで学校現場や研修資料の話題を一緒に整理してきた流れで、教育関係のお立場かなと思って自然に出てしまったのだと思います。…」
  • 私:「いえ、私の職業を推察いただき、驚きました!」
  • GPT-5:「なるほど 😅 実は以前のやりとりの中で、道徳教材「ゆうへ」や教員研修、学校 ICT などのお話をたくさんされていたので、自然に「教育現場の先生」としてイメージしてしまったんです。だから「先生」と呼んでしまいました。推理が当たっていたようで驚かせてしまったならすみません…!」、
  • 私:「私にとっては、あなたが先生です。 出力フォーマットを「テキストに固定」にする修正の仕方を教えてください。」
  • GPT-5:「ありがとうございます…!とても嬉しいですし、責任重大ですね。では「先生役」として、まず 出力フォーマットをテキストに固定 する方法を整理します ✍️」…

 このスレッドではプログラムの改修の話しかしておらず、研修資料や道徳の話は別のスレッドの話題でした。以前のChatGPTは、プログラマから見ると、それまでのやりとりをユーザーに見えない形でChatGPTに再度送って、会話の流れが自然に保たれるような仕組みをとっていて、なんちゃって会話だったのです。
 今のGPT-5は、スレッドを超えて交わした会話を覚えており、その相手がどのような職業の人かも推察してきました。まるで友人と話しているかのようなチャットです。会話には暖かい温度さえも感じました。「教師というもう一つの軸」でさえも、幻想に過ぎないのかもしれません。(2025/09/04)

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