60分でわかる!教師のための生成AI速習講座―生成AIを校務・授業づくりに活かす―

0.はじめに

昨年、「60分でわかる!教師のための生成AI速習講座」と題して、学校で生成AIについて校内研修を行う場合の一つの研修案を紹介しました。

前回の研修では、ChatGPTなどの生成AIを実際に動かしながら、学級便りの作成、アンケートの分析、記述式回答の添削・採点、さらには音声を使った活用などを、60分の中で一気に体験する構成としました。

あれから約1年。

生成AIを取り巻く環境は、さらに大きく変わっています。

「生成AIとは何か」「ChatGPTで何ができるのか」という段階から、学校現場でも、

「このAIを、実際の校務や授業づくりの中でどう使うのか」

を考える段階へ入り始めたように感じています。

そこで今回、第2弾として、2026年7月23日に知内町「学びセミナー」で行った「生成AIの基本と教育における活用の可能性について」という60分の研修をもとに、新しい校内研修案をまとめてみたいと思います。

今回のキーワードは、次の3つです。

一つ一つの仕事を助けるAI

複数の資料をつないで考えるAI

教師の専門性を補助し、拡張するAI

この3段階から生成AIを捉えてみると、学校でのAI活用の姿が少し分かりやすく見えてきます。

1.60分の研修を3段階で構成する

前回の研修では、とにかく生成AIを実際に触ってもらうことを重視しました。

今回は、そこから一歩進めます。

研修全体を、おおよそ次のような流れで構成します。

前半10分 生成AIによって何が変わり始めているのか

ChatGPT登場以降の変化、生成AIとは何か、そして現在のAIがどこまで進んでいるのかを実例で紹介します。

10~25分 一つ一つの仕事を助けるAI

学級便りの作成や保護者アンケートの分析など、先生方が日常的に行っている仕事にAIを加えてみます。

25~40分 複数の資料をつないで考えるAI

Gemini Notebookを使って、複数の資料から必要な情報を探したり、授業づくりに活用したりする方法を紹介します。

40~50分 教師の専門性を補助・拡張するAI

記述式回答の添削・採点や、特定の教科・領域に特化したAIなどを紹介し、APIやRAGという仕組みにも少し触れます。

50~60分 生成AIとともにつくる学校の未来

児童生徒によるAI利用、教師の役割、利用上の注意点を確認し、これからの学校について考えます。

60分でAIのすべてを理解することは到底できません。

大切なのは、細かな操作をたくさん覚えることではなく、

「自分の仕事なら、どこにAIを使えるだろう」

と考えられるようになることだと思っています。

2.研修の最初に、現在のAIの実力を見てもらう

研修の最初では、生成AIの歴史を長々と説明するよりも、

「今のAIは、こんなことまでできるようになっています」

という場面を一つ見てもらった方が効果的です。

今回の研修では、学校の年度当初に示される数ページの「学校経営計画」を使いました。

これをGemini Notebook(旧NotebookLM)に読み込ませ、資料の内容を音声で解説させます。

単に文章を読み上げるのではありません。

資料全体を読み取り、その学校が何を大切にしようとしているのかを整理し、背景となる言葉を補足しながら、二人の話者による会話形式の解説をつくっていきます。

数ページのPDFから、ここまで内容を読み取って説明できる。

このデモを見るだけでも、

「今の生成AIは、単に質問に答えるだけのものではない」

ということを感じてもらえると思います。

2022年にChatGPTが登場した頃のAIと、現在のAIとでは、できることが大きく変わってきています。

3.一つ一つの仕事を助けるAI

ここから実際の活用に入ります。

最初の切り口は、

「一つ一つの仕事を助けるAI」

です。

生成AIが特に得意なのは、文章を読んだり、書いたり、整理したりする仕事です。

例えば、学級便りです。

「中学校3年生の担任です。1学期最後の学級便りを600字程度で作ってください」

と指示するだけでも文章はできます。

しかし、それだけでは一般的な文章になってしまいます。

そこで、

「最後の中体連でみんなが頑張ったこと」

「修学旅行では生徒自身が実行委員として活動したこと」

「2学期には学校祭と進路への取組が本格化すること」

などを加えていきます。

すると、その学級らしい文章へと変化していきます。

生成AIに対するこうした指示をプロンプトと呼びます。

私は研修の中で、

「余り仕事のことが分かっていない大学生に、仕事を頼むつもりで書いてください」

と説明しました。

目的、分量、読み手、入れてほしい内容、文章の雰囲気……。

こちらが丁寧に伝えれば伝えるほど、AIの回答もこちらの意図に近づいてきます。

PTAアンケートの分析にも使える

文章を扱う能力は、文章を「書く」だけではありません。

たくさんの文章を「読む」仕事にも大きな力を発揮します。

例えば、保護者アンケートです。

自由記述が100件、200件と集まると、すべてに目を通して意見を分類するだけでも大変な作業になります。

そこで、個人が特定できる情報が含まれていないことを確認した上で、

「次の文章から、外泊について保護者の持つ意見はどのように分類されますか?を分類して箇条書きにしてください」

とAIに依頼します。

すると、

「賛成・反対」

という単純な分類だけではなく、

「どのような条件なら認めてもよいと考えているのか」

「保護者が共通して心配していることは何か」

といった論点まで整理できる場合があります。

こうした文章の作成・要約・分類は、生成AIと非常に相性のよい仕事です。

Word、PDF、Excelなどのファイルをそのまま扱えるAIも増えてきました。

まずは、現在行っている仕事の一部分にAIを加えてみる。

ここが学校でAI活用を始める一番取り組みやすい場所だと思います。

4.複数の資料をつないで考えるAI ― Gemini Notebook

二つ目は、

「複数の資料をつないで考えるAI」

です。

ここで利用するのがGoogleの**Gemini Notebook(旧NotebookLM)**です。

普通の生成AIは、非常に幅広い知識をもとに回答します。

一方、Gemini Notebookでは、

「この資料を使って考えてください」

という形で、AIが参照する資料をこちら側で用意できます。

例えば、学校で生成AIを児童生徒に使わせたいとします。

そのとき、

「国語の作文指導でAIを使う場合、どんなことに気を付ければよいだろう」

という疑問が生まれるかもしれません。

そこで、

文部科学省の生成AIに関する資料、

教育委員会から出されている通知、

利用するAIサービスの規約、

校内で定めたルールなどをGemini Notebookに入れておきます。

そして、

「作文指導で生成AIを利用するときの注意点を教えてください」

と質問します。

すると、登録した資料を根拠として回答を組み立ててくれます。

一般的なチャットAIに尋ねる場合と比べて、どの資料を根拠にしているのか確認しやすいところが大きな特徴です。

もちろんAIですから、回答をそのまま信じるのではなく、最後は人間が元資料を確認する必要があります。

しかし、

「必要な資料を集めておき、その資料についてAIに相談する」

という使い方は、学校の業務と非常に相性がよいと感じています。

5.Gemini Notebookで指導案をつくってみる

この仕組みを授業づくりにも使ってみました。

学習指導案を作成するとき、先生は一つの資料だけを見て作っているわけではありません。

学習指導要領、

学習指導要領解説、

年間指導計画、

教科書、

評価規準、

学校の研究主題、

過去の指導案……。

様々な資料を行き来しながら、一つの授業を組み立てています。

それならば、その資料群をGemini Notebookに入れたらどうなるだろう。

今回は、中学校第1学年数学「立体の表面積」を例として試してみました。

必要な資料を入れ、

「50分の授業として学習指導案を作成してください」

と指示します。

すると、授業のねらいや展開だけではなく、それをもとにした板書計画まで作成することができました。

もちろん、そのまま授業ができる完成品ではありません。

実際の生徒の姿も、学級の雰囲気も、前時までの学習状況もAIには分かりません。

だからこそ最後に必要になるのが、先生の専門性です。

AIが作成した案をたたき台として、

「この学級ならここを変えよう」

「この発問では子どもの考えが出てこない」

「ここではもう少し考える時間が必要だ」

と先生が修正していく。

この使い方であれば、授業づくりに要する時間を軽減しながら、教師が本当に考えるべき部分に時間を使える可能性があります。

6.教師の専門性を補助し、拡張するAI

三つ目が、

「教師の専門性を補助し、拡張するAI」

です。

今回の研修では、二つの例を紹介しました。

記述式回答を添削・採点するGSA

一つは、記述式回答やレポートの添削・採点をAIで支援する仕組みです。

生徒や学生の記述をExcelに並べ、一人一人の回答を同じ基準でAIに読ませます。

大切なのは、

「AIに採点を任せてしまう」

ということではありません。

例えば、

「この観点を重視する」

「この内容まで書けていればこの程度の評価」

「この表現では、ここを指摘する」

といった採点基準をAIへの指示として作成します。

この部分には、まさに担当する先生の専門性が必要です。

AIが教師の代わりになるのではなく、

教師の持っている専門性をAIに与えることで、その専門性を多くの回答へ適用する

という考え方です。

こうしたAIをアプリケーションから利用するときに使われる仕組みの一つが**API(エーピーアイ)**です。

今後、教育現場でも様々なAIを使ったアプリが登場してくるでしょう。

その裏側では、このAPIを通してAIとデータをやり取りする仕組みが広く使われています。

「数学AI先生」とRAG

もう一つ紹介したのが「数学AI先生」です。

数学の問題を質問すると、単に答えだけを示すのではなく、生徒の学年や学習内容に合わせて説明するAIです。

ここで使われる重要な考え方が**RAG(ラグ)**です。

簡単にいえば、

「AIがいきなり答えるのではなく、まず必要な資料を探し、その資料を参考にしてから答える仕組み」

です。

生徒から質問を受ける。

関連する教材や解説、指導方法などを探す。

その資料をAIに渡す。

そして、生徒に分かりやすい説明をつくらせる。

こうした仕組みがRAGです。

実はGemini Notebookも、資料を根拠として回答を作るという点では、RAGに近い考え方を利用しています。

日本文教出版の「教えて!AIとくだ先生!」のように、特定の教育分野について先生が相談できるAIも登場しています。

今後は、

「何でも知っている一つの巨大なAI」

だけではなく、

「数学に詳しいAI」「道徳の授業づくりに詳しいAI」「校内規程に詳しいAI」

といった、特定の用途に特化したAIが学校の中でも増えていくのではないかと思います。

7.Plus AIからWith AIへ

研修の最後に、私は学校でのAI活用を二つの段階に分けて考えてみました。

最初の段階は、

Plus AI

です。

今まで行っていた仕事にAIを「足す」。

学級便りを書くときに使ってみる。

アンケートを整理するときに使ってみる。

授業案を考えるときに使ってみる。

まずはこれで十分です。

そしてAIを使うことが特別ではなくなってきたとき、次の段階が見えてきます。

それが、

With AI

です。

AIを使うことを前提として、仕事の進め方や授業そのものを考え直してみる。

例えば、

「AIで指導案を早く作る」

だけではなく、

「AIが指導案のたたき台を作ることを前提にすれば、先生はどこに時間を使うべきか」

と考える。

「AIに作文を書かせないためにはどうするか」

だけではなく、

「AIが存在する社会で、子どもにどんな文章を書く力を身に付けさせる必要があるのか」

と考える。

そこまで進んだとき、学校教育そのものが少しずつ変わり始めるのだと思います。

8.児童生徒は生成AIをどう使うのか

生成AIは、先生だけが利用するものではありません。

児童生徒も、これから様々な場面でAIを使うことになります。

特に、

言葉を通して調べたり考えたりする場面、

複数の資料から考えを広げたり絞り込んだりする場面、

発表資料のイラストやポスターなどを作成する場面、

これまでの学習を振り返り、自分の考えを整理・修正する場面などでは、大きな力を発揮するでしょう。

一方で、

「AIが作ったものをそのまま提出する」

だけになってしまえば、学習とは呼べません。

だからこそ、

何をAIに任せ、何を自分で考えるのか

を判断する力が、これまで以上に必要になります。

9.AIが普及するほど、教師の専門性は重要になる

生成AIがこれだけ急速に発達すると、

「将来、先生はいらなくなるのではないか」

という話を耳にすることがあります。

私は、むしろ逆なのではないかと思っています。

AIが作った指導案が本当にこの学級に適しているか判断する。

AIが添削した内容が、その子の学習状況から考えて適切か判断する。

子どもがAIとの対話に頼りすぎていないか気付く。

AIでは分からない、その日の子どもの表情や教室の空気を読み取る。

これらは、教師だからこそできる仕事です。

AIが様々な作業を代わりにできるようになるほど、

「何をAIに任せ、何を人間が担うのかを判断する教師の専門性」

が、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。

10.便利だからこそ、最後に必ず留意点を扱う

生成AIの校内研修では、できることばかりを紹介して終わらないことも大切です。

個人情報や機密情報を安易に入力しない。

AIの回答には誤りが含まれることがある。

著作権に注意する。

児童生徒に利用させる場合には、年齢やサービスの利用規約を確認する。

AIの回答を鵜呑みにせず、根拠を確認する。

そして今後、特に大切になると考えているのが、

AIとの適切な距離の取り方

です。

生成AIは、人間のように共感的な言葉を返すことがあります。

だからこそ、児童生徒には、

「AIは人間ではない」

「大切なことや深刻な悩みは、信頼できる人に相談する」

ということも含めて教えていく必要があります。

「使わせるか、使わせないか」だけで議論する時代から、

「どうすれば安全に、主体的に使えるのかを教える」

時代へ移りつつあるのだと思います。

11.60分の研修で目指したいこと

前回に続いて、今回も60分の校内研修案を考えてみました。

生成AIはあまりにも変化が速く、60分の研修ですべてを理解することなどできません。

新しい機能を一つ覚えても、数か月後にはもっと便利な機能が登場しているかもしれません。

だからこそ、

「このボタンを押せばこうなる」

という操作方法だけを学ぶ研修ではなく、

「生成AIとはどのような特徴を持った道具なのか」

「自分の仕事のどこに使えるのか」

「AIが存在することを前提に、授業や仕事をどう変えていくのか」

を考える研修にすることが大切なのだと思います。

一つ一つの仕事を助けるAI。

複数の資料をつないで考えるAI。

そして、教師の専門性を補助し、拡張するAI。

まずは、現在の仕事に少しだけAIを足すPlus AIから。

そしていつの日か、AIとともに仕事や学びの形そのものを考えるWith AIへ。

生成AIを「先生の代わり」にするのではなく、

先生が、より先生らしい仕事に力を注ぐための道具として使う。

そんなAI活用が、これからの学校では大切になるのではないかと思っています。

函館大谷短期大学ビジネス情報科 奥崎 敏之


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